消えない匂い

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クシャナ国で起きた事件は、一気に世界を駆けめぐり、翌朝のトップニュースとして全世界で報道された。 街道に設置された巨大モニターに映るのは、久瀬最高司令官の顔写真や、今まで久瀬が行ってきた数々の慈善事業の功績。 ニュースを読み上げるキャスターの顔は、どのチャンネルのキャスターも沈鬱な表情だ。 ホムラ国・特殊部隊“森羅”の本部の一室で、ミリィはテレビに映る、その久瀬の顔を見て、必死に頭を働かせていた。 体育座りをし、自分の親指の爪を噛みながら、ミリィはテレビの画面に映る久瀬を凝視し続ける。 「人格者と言われる久瀬最高司令官。そんな人が、あんな拷問をされて死んだ。 あれは……明らかな報復行為だったし、あの壁に書かれた血文字……。それに、彼の匂いがした……きっと、久瀬には何かがある」 半ば確信して呟いたミリィは、端末を取り出して、画面に一つの魔法陣を浮かび上がらせるなり、直ぐに魔力を端末に流し込んで、目的地へ転移していった。 「随分、唐突で……思い詰めた顔をしているな? お前が来たと言うことは、何か良からぬ情報を持って来たと捉えて良いのか?」 ミリィが転移した先――。 それは、ホムラ国の象徴と言われる『白い砦』の内部であり、現ホムラ国の国王であるレザリアスが、友と認めた者のみに転移する事を許した部屋――レザリアスの私室だ。 タイミング良くその部屋に居たレザリアスが、転移してきたミリィに問い掛けると、ミリィは顔を強ばらせ、レザリアスに話し掛ける。 「クシャナ国の、久瀬最高司令官暗殺については、聞いておられますよね?」 レザリアスの私室へ転移した事を詫びもせず、ミリィは本題を切り出す。 椅子に腰掛け、読書を楽しんでいたレザリアスは、テーブルに読みかけの本を置き、黙ってミリィの話の続きに耳を傾ける。 「私は、昨夜クシャナ国へ向かい、拷問によって無惨に殺された久瀬最高司令官の姿を見ました。それに……他の殺された兵士達の様子も……。 全ての兵士が、刀で斬り殺されていて、久瀬最高司令官の部屋には、血文字と……私の、大切な人の匂いがしました」 ミリィが告げると、レザリアスはピクリと片眉をつり上げ、ミリィへ問い掛けた。 「久瀬についての報告書は受け取った。壁に書かれた文字の内容も理解している。だが……エルフォミリアよ。理解しているな?」
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