赤い月が見えた夜

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ドラゴンと人間が共に暮らす世界。 リュラトル大陸。 その大陸の中に、1つの小国がある。 レッドドラゴンが国王を勤めるその国の名は、ホムラ国。 その国は、小国ながらも世界を牽引する立場にあり、ホムラ国の誇る特殊部隊“森羅”は、今や世界中の治安を守る砦として、他国にもその名を轟かせている。 その森羅本部の屋上で……。 二十階建ての高層ビル。 それが森羅本部だ。 その屋上で、1人の女性が夜空を見上げていた。 屋上の縁に腰掛け、足を投げ出しているその女性は、ツインテールにした赤い髪を風になびかせ、女性らしいふくよかな胸をそらして、大きくつぶらな赤い瞳で、夜空を見上げている。 夜空に浮かび上がった月は赤く輝いていて、その月を見た女性は何か胸騒ぎを覚えた。 「お酒を飲もうと思って来たのにな……」 赤い月を見て、興ざめしたらしく、女性は足下に置いていた酒瓶とグラスを持ち上げ、自分の部屋に戻ろうと腰を上げる。 その時、屋上のドアが開き、1人の隊員が息を切らせて出て来た。 「ミ、ミリィ大佐! 大変です!」 よほど焦っていたのか、隊員は顔を左右に振りながら叫ぶように女性へ声をかけた。 「落ち着きなさい。私は此処に居るでしょう? 何があったの?」 ミリィと呼ばれた女性は、酒瓶とグラスを片手に隊員へ近付くと、落ち着いて話すように隊員を促す。 ミリィに促され、一度深呼吸した隊員は、思いがけない事を口にした。 「クシャナ国の、久瀬(くぜ)最高司令官が、先ほど殺害されました」 「エッ!」 クシャナ国。 魔法陣の研究が盛んで、近年では魔法陣を機械に埋め込む、魔機学という分野で世界をリードしている経済大国だ。 久瀬は、そのクシャナ国軍の最高司令官であり、ミリィが聞いた話では人格者としても有名な人物だったハズだ。 「軍部のトップが殺害?」 他国の事とは言え、大事件が勃発したものだ。 「胸騒ぎが的中したわね……。それで? クシャナ国から出動要請が来たの?」 ミリィが問い掛けた途端、隊員は何度も首を縦に振る。 「了解。じゃあ、直ぐに転移するから、端末を貸して」 グラスと酒瓶を床に置いたミリィが、隊員に手を差し出すと、隊員は慌てて自分の胸ポケットを探り、端末を取り出した。
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