赤い月が見えた夜

3/4
976人が本棚に入れています
本棚に追加
/42ページ
隊員から、手のひらサイズの薄い端末を受け取ったミリィは、端末を操作して目的の魔法陣を探す。 そして、クシャナ国へ転移する魔法陣を見付けると、端末に魔力を流し込み、一気に転移してしまった。 「ミリィ大佐」 転移して最初に見たのは、白くて巨大な円形の建物。そして、その入り口に集った森羅の隊員達だった。 「みんな早いわね。状況は聞いたの?」 転移して早々、声をかけてきた隊員に、ミリィが現状を尋ねると、隊員は直ぐ頷いてミリィを案内するように歩き始める。 「クシャナ国軍部の兵士から事情聴取したところ、被害者は多く……と、とにかく見て頂けますか?」 「被害者が多いって……」 現状を説明しようとして、返答に戸惑った隊員に、ミリィは顔をしかめたが、隊員に案内された通路を見て、それ以上尋ねるのを止めた。 「これは……」 クシャナ国軍部の建物。 正面玄関から一歩中に入った先に見えたのは、辺り一面に広がる血と、物言わぬ屍と化した兵士達の無惨な姿だった。 「犯人は正面玄関から堂々と建物に入り、誰彼かまわず殺して進んだようです」 吐き気を抑えるように、隊員が口元を手で押さえながら話すのに対し、ミリィは血溜まりに横たわる死体に目を向け、じっくり死体を見つめる。 「見なさい。死体はみんな、鋭利な刃物で斬られてる。犯人は多分1人よ」 血溜まりに落ちている切り取られた腕や、首から先の無くなった死体を見てミリィが呟くと、隊員はミリィにならって死体を見たが、直ぐに顔をしかめて視線をそらしてしまった。 「しっかりしなさい。貴男は森羅の隊員でしょう? どんな状況でも冷静沈着。ちゃんと心がけておきなさい」 視線をそらした隊員を叱責したミリィは、血溜まりの続く廊下を闊歩する。 広かった正面玄関と違い、廊下は狭い。 狭い廊下には、おびただしい血が広がり、死体が道を塞いでいる。 「………………」 死体をまたぎ、血溜まりを踏みつけ、ミリィは目的の部屋を見つけた。 そして、おもむろにドアノブを掴み、部屋へと入ったミリィの目に飛び込んできたのは……。 「ウッ!」 ここで、ミリィに同行していた隊員は、ついに耐えきれなくなり、口を押さえて廊下を元居た方向へと駆け出していく。 それ程、酷い有り様だった。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!