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赤い月が夜空を彩る。
彼は、その月を背に、ひたすら穴を掘っていた。
穴を掘り始めた時は、まだ日が出ていたと思う。
それがいつの間にか夜になり、彼はようやく穴を掘るのを止める。
人が入るくらい大きな穴を掘った彼は、穴から這い出ると、近くに横たわっている少女に近付いていく。
白いブラウスを身にまとい、やせ衰えたその小柄な少女が、目覚めることはない。
何故なら、少女の胸元は血に染まっていたからだ。
彼は、その少女をそっと抱き上げ、穴の中に運ぶ。
そして、胸上で両手を組ませてやると、彼は少女にソッとキスをした。
「ゴメンな」
物言わぬ少女に謝った彼は、穴から出ると、少女の足下から土をかぶせていく。
その間、無表情な彼の目には涙が溢れ、土を濡らしていく。
やがて、少女の姿が土で埋まりきった時には、彼の目から溢れていた涙は消え去り、代わりに目から溢れていたのは血だった。
そして、彼は立ち上がる。
そばに突き刺していた刀を抜き取り、目元を拭った彼は、ある場所を目指して一歩を踏み出した。
目指す場所は、彼が“彼としての存在価値を生み出すに最適な場所”として選んだ施設。
「過去が、未来を喰らい尽くす瞬間を、見せてやる」
彼の呟きが、誰に向かって言った言葉なのか?
それは分からないが、彼の目にはもう……人としての温もりは無くなっていた。
そして――
「アアアアアアアアアアア!」
白い円形の建物に、突如として響き渡る声。
その声を聞きつけた兵士達が、続々と彼の居る場所へと集まってくる。
兵士達は、皆一様に武器を構えながら、声のした場所へと近付き、ほとんどの兵士が彼の姿を見て声を失った。
彼は、刀で胴を切り裂き、悶え苦しんでいる兵士の髪を掴み、持ち上げたまま笑っていた。
「ハハ……ハハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハ!」
切り裂かれた胴から、内臓がはみ出し、口から血を吐く兵士を見て笑い、集まって来た兵士達を見て、更に口元にいびつな笑みを貼り付ける。
「覚悟しろ。お前らの誰一人として、俺から逃げられない」
そう言った後、彼は軽々と胴を切り裂いた兵士を、他の兵士目掛けて投げつけた。
いかに訓練された兵士でも、内臓を撒き散らしながら飛ばされてくる仲間の姿を見て、平気でいられる者は少ない。
迫ってくる仲間の血や、内臓、体から身を守るため、他の兵士達がざわめきたつ。
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