笑い仏

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 仏様というのはこんなに脆いつくりなのか、へぇ、と感心しつつ、じわじわと己が行なった所業に怖れ慄いた。震えが止まらない。 そうこうして、朝まで私は尋常でない罪の意識に苛まれながら、ぶるぶるぶるぶる、ベッド脇に散らばる仏の残骸を処理した。 途中これは皿ではないかと思ったりした。 それからこのかた、良いことばかり打ち続く。 会社の上役に妙に気に入られ出世、部下にも人気、そのオフィス裏で謎の美女に誘惑される、歩く先々で金を拾う、おばはんがアメちゃんをくれる、また出世、出世、その独特の仕事術の噂を聞きつけたどこやらの出版社からオッファー、「おとぼけ仕事術」という自己啓発本を書いたらベストセラーになり退社、ささやかな有名人になりテレビに出演、歯に衣着せぬコメンテーターとしてお茶の間に旋風を巻き起こす。政界に進出。官のあらゆる暗部をズバズバと裁き、我が国の風通しを良くした救世主として、いずれ首相になることは間違いないという噂。笑いが止まらない。うっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっ………… 数年後、ある男がマンションの一室で死んでいた。何の外傷もない。死因は不明。 その屍は笑顔であった。  みたいなことが起こったらいっやだなぁ、と思いつつ、私は日々を着実に歩んでいる。感謝。日々に。合掌。
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