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カーテンの隙間から朝日が差し込み、薄暗い部屋に、幾筋かの光を描き出した。
――朝、か。
とある宿場町の、小さな安宿の一室。
粗末なベッドの上で、壁にもたれた格好のまま、ディー・クライエンスは大きく息を吐き出した。
眠るのは嫌いだった。
ただ、肉体的な疲労を取り除く為に、どうしても必要な休息。
そうでもなければ眠らない……眠れなかった。
眠りは、時として悪夢を呼び起こし、封じられた傷口を、耐えられぬ苦痛を伴いこじ開ける。
ディーは無意識のうちに、右肘の辺りを握りしめていた。
古傷がひどく疼く。
思えばそれは、『予兆』だったのかもしれない。
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