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稔麿side
僕が診療室へ着き、そっと襖を開けてみると狐が横になって寝ているのが見えた。
狐の側に行き、胸の辺りを見た。
規則よく上下に動いていて、呼吸も安定している。ああ、助かったんだと分かった。
心の奥でどこかホッとしている自分がいた。今まで他人のためにここまでしたことはなかった。そう。僕らの師、松陰先生(吉田松陰)が『安政の大獄』で死んで以来、僕は、とっくに感情なんて捨てたと思っていたから。ただ一つ幕府に対する憎しみだけをもって……。
そんな僕が狐に振り回されている。もしかしたら僕は、変わることが出来るのだろうか?僕の進む道を見つける事が出来るのだろうか?
教えて下さい。先生……………。
狐side
『パチ』
狐は、ゆっくり閉じていた目をあけた。そして、身体を起こし辺りを見渡した。
一体、ここはどこだ?何故、我
は、ここにいる?それにしても…
狐は、ここにくるまでの事を思い出していた。
まさか人間(祓い人)ごときにやられるとは…………
自分の事ながら、馬鹿らしい。
狐は、自分の愚かさを笑った。
すると、自分を見ている男の視線に気付いた。どこか安心したかのように話しかけてきた。
「起きたんだ。良かった……。」
狐は、男の顔をまじまじと見た。その男が狐の前に座る。
「そんなに警戒しないでよ。何もしないから」
【なんだ、この男は?】
男の言葉が通じたのか狐は、威嚇するのを止め、腰を下ろした。男を見つめ、口を開く。
「小僧。
何故、我を助けた?」
静かにそう聞いた狐の目に、生気はなく、ただ男を見つめていた。
【ただの狐じゃないと分かっていたけど、喋るとはね。
やはり妖か…………。】
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