桜舞う、ワカメの来訪

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   嫌でも目につくその姿を意識内で捉えたのはどうやら俺だけではないらしく、周りの連中も自然と彼女を避けるように先へと進んでいた。  思わず立ち止まって約数分。  見たところ、初めて認識してから未だに遠近法による縮尺があまり為されていない。  脳にバグでも入り込んだのか。と思わず疑ってしまうほど、彼女の足取りは重たかった。  仕方ない、先を急ごう。  と行動を選択した俺は、早足で彼女を追い抜こうと試みた。  一歩、また一歩と歩みを早める内に、次第に彼女の全容がはっきりと視覚へ写り込む。  真っ黒に染まった腰までの髪の毛はモサモサとうねった癖を見せ、ほんのりと漂うシャンプーの香りが鼻を燻った。  スリップストリームなどと言った高度な技術も要さずに、すんなりと彼女を追い抜くことに成功した。  後ろ姿から体の正面へと向くに連れて、彼女の容姿が明らかとなって行く。  彼女を完全に追い抜いた刹那、俺は彼女の顔を初めて目の当たりにした。
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