3.病院

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 それから特に会話もなく病室に入る。六人部屋だ。      六人いる患者は、それぞれテレビを見たり本を読んだりしてても良さそうだが、そんな気配はしなかった。各自カーテンで仕切られていて目で見ることは出来ないが何かしている様子は感じられない。    病室の空気も廊下とは違う。空気は閉め切った部屋独特の不快感が強かった。つまり生きている人間がいるのに生気が感じられなかった。    窓を開けたくなった。      コッピーはカーテンの一つを開ける。強い汗のにおいが鼻を覆う。     「お父さん。調子はどう?」      底抜けに明るい声が場違いだった。コッピーの父は弱々しく笑った。     「ああ。だいぶ良いよ」      何の病気か分からないが調子が良いようには見えなかった。思わず治る見込みはあるのかどうか聞いてしまいそうになる。    ローチもうつむいて何を言って良いか分からないようだ。コッピーだけが明るい笑顔を振りまく。どうも無理して笑ってるようにも見える。もっともコッピーの父も同じだ。
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