3人が本棚に入れています
本棚に追加
まさか自分でも肯定するとは思ってもみなかったから、その言葉を紡いだすぐ後、私はその自分の生への執着にブルリと肩を竦み上げた。
「……怖いか?」
もしかすると彼は、私の思っていることが分かるのだろうか。
目の前の男の言うことは、的確に私の不安を突いてくるのだ。
台風のようにこれだけ苦難と後悔が渦巻く私の心の中に、ただ一点だけ残された生きたいという死への恐怖を、いともたやすく示してみせるのだ。
「い、いいえ……怖くはないです。ただ、あの人達のことが────」
けれど私は否定した。
何を今更と、私は心の中で自分に鞭を打つ。
ここに来ることが決まってから、すでに覚悟はできていたではないか。
だのにどうして、今更恐れることがあろうか。
その時ふと、私は視界が揺らぐのをその目ではっきりと見た。
ああ、もう限界か、と。
私はそんなことを思い巡らせてみたものの、直後頬を伝った一本の露によって、それが涙であると理解することができた。
最初のコメントを投稿しよう!