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音もなく、冬の街に雪が降り積もる。石畳(いしだたみ)の通りの両側には、赤茶色や淡いオレンジ色のレンガ造りの古い建物が建ち並んでいる。建物には黒い格子(こうし)状の窓枠がついているのだが、冷たい空気を遮断(しゃだん)するためなのだろう、どの窓もぴったりと閉じられていた。その窓辺から通りを見下ろす少年、植物に水やりをする娘。それぞれの窓辺で、それぞれの人間が思い思いの休日を過ごしている。
朝なのか昼なのか、わからないような曇り空。雪が空一面を覆い、それが辺りをいっそう薄暗くしていた。とはいえ、これは冬の国の日常である。街を行き交う人々に、陰気(いんき)な天気を嘆(なげ)く様子はない。
それは、冬の国の住人である皚烏(しろう)にとっても同じことだった。本を読みながら通りを歩く皚烏の姿も、近所の者にとっては見慣れた光景である。
トレードマークの真っ白な耳付きフードですっぽりと頭を隠した皚烏は、本を片手に進んでいく。前を見ず、何かを踏んだ気がしても一向(いっこう)に気にしない。そういう歩き方をしていたものだから、通りを曲がったところでとうとう人とぶつかった。
「ああ、ごめんなさいね。怪我はないですか?」
ぶつかった相手が、皚烏に向かって丁寧にお辞儀をする。黒く長い服の裾(すそ)は足の下までをすっぽりと覆い、肩には白いストールを羽織っている。そして首には、大きなロザリオが下がっていた。
「なんだ、ナオミ神父か。あんた、確かさっきもこの辺にいなかったっけ?」
「ええ、実はその……迷ってしまいまして」
ナオミは困った顔で微笑(ほほえ)む。またかよ、とため息をつきながら、皚烏は少し茶色がかった金髪に積もっている雪と、ナオミの顔を交互に見やった。
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