冬の国

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「教会のシスターが体調を崩してしまって、代理で私が診療所へ薬を取りに行くところだったんです……診療所は、どこにあるのでしたっけ?」 「時計塔の前の広場についたら、城とは逆方向に向かって大通りをずっと進む。街外れに出たら右に曲がって、小さい路地を三つ越えたら診療所だ」  ナオミは皚烏の言葉を追いながら人差し指で地図をたどるように宙(ちゅう)で動かすが、次第に頭を傾(かし)げ始めた。 「ちょ、マジかよ! こんだけ簡単な道で迷えるとか、ある意味スゲーな」 「地図は本当に苦手で……急にこんなことを頼むのは申し訳ないのですが、診療所まで案内して下さいませんか?」  声を上げて笑う皚烏に、ナオミは申し訳なさそうにはにかんだ。 「診療所に? やーだね、面倒くせえ」 「そうですか、困りましたね……先生に貸していた、教会に伝わる古い魔導書も受け取らないといけないのに」 「よし、案内しようか」  皚烏はナオミの口から『古い魔導書』という言葉を聞くなり、あっさりと道案内を承諾(しょうだく)してしまった。手にしていた本をぱちんと閉じると、皚烏はルビーのようにすきとおった赤い瞳を光らせてナオミを見る。 「その魔導書、どのくらい前のものなんだ?」 「さあ……はっきりとはわかりませんが、五百年くらいですかねぇ。魔法に興味があるんですか?」  正直なところ、皚烏にとっては本の内容などどうでもよかった。五百年前の古書。それを手にして眺めることを想像するだけで、皚烏の気分は最高に高ぶるのであった。  皚烏は後ろにナオミを引き連れ、鼻歌まじりに石畳(いしだたみ)を進んでいく。時計塔へと向かう二人の残した足跡に、新しい雪が静かに積み重なっていった。
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