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白いベッドに、清潔なカーテン。消毒薬の香り漂(ただよ)う診察室の壁には、ぶ厚い医学書やら魔術書やらが無秩序(むちつじょ)に詰め込まれた本棚がある。
古書には目がない皚烏(しろう)だが、今、その視線は古い本の並ぶ書棚には向けられていない。ぴんとした緊張感を漂(ただよ)わせ、じっと一点を見つめていた。
「そーんなに怯(おび)えなくても大丈夫だよ~。何にもしないって」
診察室の丸イスに座った皚烏の目の前には、長い髪を後ろで束ねた男がなぜか満面の笑みを浮かべていた。外はいつの間にか雪がやんでおり、窓から差し込む光が男の銀色の髪にきらきらと反射している。
真っ青な瞳を細めて何やらじっと皚烏を見つめるこの男こそ、診療所の主であるワグナー・アンネリスその人である。
「触んな、ハゲ」
頭に被(かぶ)せたままの白い耳付きフードに忍び寄る手を睨むと、皚烏は立ち上がった。
ナオミを診療所まで送り届けた皚烏は建物の中に入る気などさらさらなく、ナオミが教会の魔導書を受け取って出て来るのを外で待っているつもりだった。ところが運の悪いことに、診療所の前に着いたところで買い出しから戻ってきたワグナーと遭遇(そうぐう)してしまったのである。
「アルビノは見せ物じゃねんだ。珍しいからってベタベタしてくんな、きめぇ」
不機嫌を全開にする皚烏だったが、それを気にも留めていない様子でワグナーは両手を皚烏の上で停止させている。ナオミはそんな二人を、部屋の隅からにっこりと見つめていた。
「おや、今日はやけに賑(にぎ)やかだな。医者が賑(にぎ)わうというのも、困りものだが」
診察室の戸が開き、外の冷たい空気が足元に流れ込む。現れた男は背の高いナオミと同じくらいの身長で、美しい青色の髪が肩から胸の辺りまでこぼれていた。
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