先生ト云ウ人

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安政四年二月 睦月中旬――…。 「は……っ、はぁ」 黒髪銀目の大人びた少女は、長州の町を駆けていた。 よく見ればその瞳からは、泪が溢れている。 「待ちやがれ!! くそっ、二手に分かれるぞ!」 ――嫌だ。 逃げないと。 今少女にある感情は、恐怖と憎しみ。 何故かと云えば、総ての始まりは半刻前に遡る――。 ―――――――――― 「父さーん、母さーん! 今帰ったよー」 一つの家に訪れた少女。 少女の名は、高須 奈々。 長州では武士の身分である、高杉の親族にあたる。 「……?」 声を掛けたは良いが、応答が無い。 不思議に思った彼女は、そろりと家の扉を開けた。 「ひぃ……っ!」 怯える奈々の見つめる先には、紅。 総てが深紅に染まり、自分の身体さえも染まっているような感覚に陥った。 「――よぉ、嬢ちゃん。 もしかしてあんた、こいつらの娘か?」 「……っ」 ガタガタと身体が震えて、返事をする事すらままならない。 けれど危険を感じた彼女は、瞬時に駆け出した。 「あ、おい!」
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