命の海:アローネ海 第2法章 海鳥と共に来る季節

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《海鳥は連れてくる 新しい季節 嵐の季節 海鳥は連れてくる 新しい季節 空が海に襲い来る季節 海鳥は連れてくる 海を奪うもの 海を浚うもの それは 逆巻く風の音 海を削り 荒波を起こす それは 篠突く雨の音 海を叩き 高波を起こす それは 引裂く雷の音 海を砕き 怖波を起こす それは、海が飲んだ空のように儚く 泡となって消えていく 風は凪ぎ 雲は散る 舞い降りるは静寂 音はなく 空は高く 海を包む 海鳥は連れてきた 遠い空の落とし物 空を泳ぐ鯨たちの涙と 彼らに着き従う浮き魚たちの風 海鳥は連れてきた 愛しき母を撫でる雄々しき父を 繁栄をもたらす女王に寄り添う全てを見降ろしたる皇帝を 海鳥は飛び去って 海の果てで太陽が世界を焼いてゆく 死にゆく不死鳥は紅蓮の翼を散らしながら 嘆きを上げて 明日を夢見て 自らを焼く炎にも抗えずに 海の底へと沈んでいく 世界は焼かれるけれど 皇帝はその炎を映しても けして揺るがず 女王はその炎を抱いて 全てを受け入れていく 大空は緋く 大海は紅く 不死鳥の終わりを見守って けれど 我らは知っている 不死鳥は再び飛ぶことを 輝く黄金で 皇帝と女王を照らして 昇り来ることを 海鳥は連れてくる 新しい季節 海鳥は連れてくる 旅立っていったもの 海鳥は連れてくる 偉大なる運命 海鳥は飛び去って 波はいつまでも揺らいでいる》
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