プロローグ

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 静かな子だな。  それが最初の印象だった。  周囲がどんなに騒いでいようが、お構いなし。いっつも一人で本を読んでいたり、眠っていたり、あるいは――ただぼうっとしたりしている。  ぼくはそんな彼女にいつの間にか目を奪われていった。髪は手入れをちゃんとしてないのかボサボサで、眼鏡のレンズが分厚く、いつも俯きがちだからか、素顔はよくわからない。  気になる。素顔を見てみたい。  そう思ったけれど、なかなか彼女に話しかけることはできなかった。だって、彼女は誰かと喋ることを拒絶しているように見えたから。  だけどある時、ぼくは見てしまった。  彼女の、素顔を。  たまたまぼんやりしていたぼくに、急いでいた彼女がぶつかってきたんだ。教室前の廊下でのことで、彼女はいつも掛けている眼鏡を落っことしてしまった。ぼくはそれを拾い、慌ててそれを探している彼女に手渡した。  手渡す一瞬、目が合った。  この世のものかと思うくらい、美しかった。  ――その一瞬で、ぼくは彼女に恋してしまった。
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