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やっぱりか。
幸也はおれと明日菜が放つ苛立ちを感じ取ったのか、
「お願いだよ! なんとか彼女のことを知りたいんだけど、どうしてもきっかけが切り出せなくて……明日菜は学年中の女子に顔が利くし、道之は誰に対しても同じように喋れるだろ? 二人しか頼れる人がいないんだ……!」
両手を合わせ、三十度、四十五度、直角――ついには土下座までして頼み込んだ。
おれが顔を上げてくれと言っても微動だにせず、幸也はひたすら地に頭を擦り付けている。
困ったもんだ。そんな風に頼み込まれても嫌なものは嫌だし……明日菜の方を見やると、明日菜は複雑な表情で拳をギリギリ握りしめていたが、
「……わかったわよ」
やがて、痺れを切らせたかのように、舌打ちを交えて呟いた。耳を澄ませていないと、風に吹き飛ばされてしまいそうな声だった。
幸也はその声を聞いて、おずおずと顔を上げた。
明日菜は気恥ずかしくなったのか顔を背けて、
「まあ、あたしとしても、あんたの好きな人とやらは気になるしね。手伝える範囲でなら手伝ってあげてもいいわ」
「本当かい? ありがとう、明日菜」
柔らかく微笑んだ幸也。瞳がうっすら潤んでいる。 明日菜はそれを見て、一瞬また複雑怪奇な顔を見せたがすぐそれを殺して、
「それじゃ、明日から頑張りましょう。道之?」
「…………は?」
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