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「いぶ、今夜は出かけるよ」
ソファに長々と寝そべった格好で、煌のやつが言った。
「急だね」
「……まあね」
「何があるの」
向かいに腰を下ろして煌の目を見る。やつの黒い目は、すでにもの憂げだ。
この様子だと――少なくとも楽しい用事ではなさそうな気がした。
「誰かに会いに?」
「うん」
「相手は?」
「……名波先輩の、彼女……」
え。
「……確か、えみりちゃんって……」
煌は無言で頷いた。
名波先輩は僕らより二つ年上の、煌が所属している拳法何とか同好会の繋がりで知り合ったひと。
ラガーマンなのにこの会にいるというバイタリティも凄いが、彼の人柄が人を引き付ける――まあ、要はいい人なのだ。
そのひとの彼女が、僕らと同い年の長瀬えみりちゃん。
彼女とは名波先輩から紹介を受けた昨年と、そして先月のビーチパーティーで会っていた。
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