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「結婚、考えていたんじゃないかな?お袋の形見だけど見たい?」 明は、懐から指輪のケースを取り出し、浪川親子に見せた。 小さなルビーとダイヤの指輪。お袋がずっと左手薬指にしていた指輪。 「貴方が、お袋にプレゼントしてくれたんですよね?」 「ああ。私一人の力では、こんな粗末な指輪しか買ってやれないと、思ったものだ。」 「お袋は、それでも嬉しそうに眺めていましたよ。」 「そうそう。時々愛しそうな、幸せそうな笑顔で見ていたよな?」 だから許せる。蟠りが全く無い訳じゃない。だけど、実の父に恨み言一つも言わなかったお袋の姿と、俺達自身が体験してきた事を重ね合わせれば、もう怒れるほど子供じゃない。 そう言う意味を込めて、浪川を見た。 「あ…兄貴達は、それで良いのかよ?」 浪川…いや孝志が折角、勇気を出して(兄貴)と呼んでくれたことに、嬉しかったり、くすぐったかったりする。 「ん…。今更還俗するのもなぁ…。それに寺を継ぐって、親父や嫁さんに言ってるからな。継がないなんて、今更言えないだろ?それに師匠兼じじいが死んだから、家業成立させなきゃなぁ…。だからこっちの面倒まで見れない。透と孝志に任せた。」 「俺も、どうこうして欲しい訳じゃないし。今の会社でもうちょい暴れたいしな。それにたまには孝志のお守りしてやんなきゃ、拗ねるだろ?」 「構ってくれなきゃ、拗ねる歳じゃないし!」 「君達…」 「父さんだって、少しは自覚しなきゃね。」 「喧しい息子が、二人も増えたじゃん。親孝行から逃がさないからな。」 「明…。透…。」 父さんは、うっすらと涙を浮かべた。 「先ずは、顔合わせだよなぁ。」 「尚登以外の姪っ子や甥っ子見たいしな。」 「兄貴達の子供は、俺の子供も同然だからな!」 「家の千奈美は、渡さないぞ。俺に似て可愛いんだ。」 「明兄に似たの?可愛そうに…」 「孝志。早速明兄さんの洗礼を受けたいらしいなぁ…。可愛くないのは、この口か?」 「うわっ!!透兄、助けろよ。」 「30年分、弄られとけ。」
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