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ロン毛の坊主に口を抓られている孝志を見るのは、なかなか新鮮だ。父さんも笑いながら見ていた。 「父さん、変だけどさ…幸せな36年過ごしてくれた?」 「ああ。お前達のお陰だ。」 「なら良いんだ。お袋の憂いが、晴れる気がする。」 まだ、洗礼真っ只中の孝志に視線を向けると、じゃれ合う姿は、弟そのものだ。 「お前達の36年は、どうだったんだ?」 「見ての通り、喧しい36年だよ。言っとくけど、じじいから麻雀・花札・ポーカーなんて、習ってるからね。勝負の時は、負けないよ。」 「その前に教えてもらう、必要があるな。」 「孝志は、麻雀強かったけど?」 「中学から高校の時にでも、悪い友人から教わったのだろう。」 「立派に更正して、良かったじゃん。」 「何、落ち着いた感じで、親子の会話楽しんでんだよ!?明兄をどうにかしろよ!」 流石の孝志も、この煩わしさはお手上げらしい。俺に助けを捻くれた態度で求めた。気に入らないから、しれっと拒否してやる。 「草壁家名物、明の喧しい愛情表現だ。弟ならどーんと受け取れ。」 「受け取りたくない!」 「やばっ!何時だ?」 「14時。」 「15時から、葬式入ってんだ!」 「坊主も、大変なんだなぁ。」 「わかってくれたか、孝志。」 「痛い。気持ち悪い。抱きつくな。」 「仕方ないだろ、生臭坊主なんだ。」 「透~。」 「本当の事だろ?肉も魚も酒も、タバコも女も大好物だろ?ほれほれ、反論してみろよ。」 「孝志、これが草壁家名物、鬼畜透だ。覚えたか?」 「名物有りすぎ。」 「じゃあ、俺もそろそろ行くよ。孝志も仕事しろよ。」 立ち上がると父さんは、言いにくそうに俺に言った。 「透、この会社に来てくれないか?」 「ダメだよ。余計に混乱させるだけだ。まぁ、孝志に泣き付かれたら、考えなくはないけど。」
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