子供

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すっかり春らしい天気になって、庭の桜も花が大分散っている。 「美佐子さん。こんな時でごめん。タイミングを測れるほど、簡単な状態じゃないから、俺から話すね。」 去年、光孝が産まれる少し前に、孝志から相談を受けていた。 風通しが悪くなった父親の会社を継がず、創業したいと。 一度でも変な通例を作ってしまえば、どんどんおかしな方向に会社が転がる。それはわかっている。それでもなんとか、軌道修正をかけるのが、経営者に求められる技量だが、お世辞にも父がそれに向く人物とは言い難い。脇を固めている、重役達のコントロールが甘い。 ただ一つだけ優れていたのは、先代が流通させた自社株の殆どを、妻または孝志名義で購入し、本来の一族保有に株式を戻していること。俺達兄弟も偶々保有していたJTS株を手放すなと言われている。更に足されて、10%ずつ持たされている。 「兄貴達も、親父を裏切る事に巻き込むかもしれない。だけど、これ以上有能な社員が路頭に迷うのを防ぎたい。だから、透兄を俺の会社に招きたい。」 「お義父さんは、なんて仰ったの?」 「自信があるなら、やってみなさいとだけ…」 美佐子は、少し俯いた孝志に微笑んだ。 「孝志さんが感じているのは、義務感よね?透、貴方は貴方なりの考えも答えも出てるでしょ?」 「ああ、付いてやりたい。今の会社も、やり尽くした感じがあるしな。」 「孝志さん、そう言うことだから。私達はね、この人に付いていくと決めたの。だから、加奈ちゃんも反対してないんでしょ?」 美佐子に微笑まれて、加奈ちゃんも頷いた。 「孝志さん、貴方一人で背負えないなら、透の肩を借りて。頑丈なのよ?」 「美佐子?反対しないのか?」 美佐子はお見通しで、俺に笑い掛けた。 「部長を蹴った時には、もう考えていたんでしょ?」 「バレバレでしたか。」
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