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結婚式と言っても、今更だし。披露宴だけの気分だ。俺と美佐子の間で、尚登と智美は、上機嫌で目の前のご馳走に微笑んでいた。
「なんか、俺の企画。大幅に削られてませんか?」
「あのな、どの面下げて好き好んで晒し者になるかよ。俺と嫁さんが仲良いのなんか、尚登と智美見ればわかるだろ。」
いつまでたってもガキだと思える永倉が、ビール片手に文句を言いに来た。いつも通りと行かないのは、大舅の大谷会長も孫娘である永倉の女房に連れられて参加しているからだった。
「だから言ったじゃないですか。おふざけが過ぎる企画は、副社長に握りつぶされますよって。」
唯一、俺が引っ張った部下である水口が、苦笑いで永倉を見た。
「透、良い式だった。これからも、美佐子さんや子供たちを大切にして、頑張りなさい。」
「姉さんも、きっと見ているだろう。憂いが晴れた筈だ。」
「ああ。美佐子と二人で、誰からも羨ましって思われる家族でいるよ。」
本気で、ちゃんと美佐子にこういうのを自分で着せてやれていない事と、形だけでも写真くらい撮っときゃ良かった。そんな今更な後悔も全く感じてないわけじゃない。
「美佐子さん、すごく綺麗ね。透、これからも世界一のお嫁さんを大切にするのよ。」
お袋に言われた気分になる、義母さんの言葉。素直に頷ける。
披露宴もお開きになり、俺と美佐子はそのままホテルに宿泊する。
借りたのは、タキシードだけだし、さっさと着替え部屋で美佐子を待っていた。
「……透。」
「ドレスのまま来てくれるなんて、予想外だ。俺の嫁さん、世界一って気分になるもんなんだな。」
「恥ずかしいから、あまり見ないで。」
「そのまま来ちゃうからだろ?俺に脱がせて欲しい?」
「孝志さんが、透ならそういう事を言いそうって笑ってたわ。」
美佐子はくすくす笑うと、うっとりと眼を細めて俺の腕に戻ってきた。
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