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「知らない、イコール気にしてないって事だよな。」 「浪川!」 「いや、良いんだよ。気にしなかった訳じゃない。私の存在が、由樹の幸せの邪魔になるなら、由樹の前に現れない事を選んだ。戸惑わずに新しい幸せを掴んで貰いたいと願った。」 「親父の身勝手だよな。」 「ああ、否定しない。」 浪川は、父親を睨む目を少し緩めるとため息を落とした。 「浪川さん。俺には、貴方の気持ちが少しだけ理解できます。俺も結婚前に上司から縁談持ち込まれました。妻は、俺を想って身を引いた。けどその頃には、もう息子が妻の身体に宿っていた。 俺が貴方と同じにならずに済んだのは、妻と地位を引き換えに出来るほど、安い立場に妻が居なかった事と、妻が息子を諦めなかったからです。幸運と思っています。」 「お前…」 「悪かったな、明。本当は、墓までそれは腹に仕舞っておくつもりだった。」 「いいや、透らしいよ。美佐ちゃんと、引き換えにならないよな。」 「先輩。あんた達、バカですか?腹が立たないんですか?」 「悪いね、浪川くん。その時期は、越えてるんだよ。俺も結婚に失敗したし、まぁ焼けぼっくいってやつで、また籍を入れるんだけどね。勝手だと怒れる年齢は、越えてしまったんだよ。」 「それに、似たようなことを体験したことで、知らなかったなら仕方ないと許せるしな。」 「お人好しですね。理解できません。」 「する必要はない。それに、お前は曲がらずに生きてる証拠だから、誇りにすればいい。」 「なんで、権利を主張しないんですか?」 「権利って?」 「それこそ、必要ないだろ?後継者は、一人居れば十分だろ。そうなんですよね?」 「ああ。君達を振り回すつもりはない。」 浪川は、その言葉に激昂した。 「親父!明さんや先輩をなんだと思ってんだよ!?同じ息子なんだろ?俺の兄貴なんだろ!?」 「落ち着けよ、浪川。」 「なんで他人事みたいに言えるんですか?俺が腹立つのは…。確かに親父はお袋を裏切ってないかもしれない。だけど由樹さんの犠牲の上に胡座をかいてる。……頼むから、息子にこんな事言わせんなよ…」 「ありがとな。俺だって、普通に結婚してたなら、今更って罵ったかもしれない。」 「だけどね、愛した人と離れて生活したからこそ、わかるんだ。知らなかった。だからお袋の幸せを考えてくれた。だから、迷わせたくないから会いに来なかったって。」
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