211人が本棚に入れています
本棚に追加
「さぞかし気分がよかっただろうな。心の中で、二股かけていたって事だよな?」
「捻くれた解釈するな。」
「捻くれもするさ!俺は、父親に大切にされた記憶が、ほとんどないからな!」
「浪川君。近くにいて、見守ってくれることが、大切にされたと思わないかい?危機的な情況が、転がってるとは思わないけど、何も聞かずに君は助けられたんじゃないかな?」
明は、穏やかに浪川を諭した。
「俺達には、自分の幸せより俺達の幸せを優先してくれた、父親がいる。それこそ悲しいと思う隙も与えないほど、忙しない家族だったけど、それが俺の家族なんだと納得できる。浪川…白黒付けたいだけじゃない。グレーゾーンが心地良い人間もいるんだよ。」
「俺は、納得できない。」
「ガキだね、お前。」
「まぁまぁ…」
「俺は…悔しいんだ。どうやっても勝てなかった人が、兄貴だった。正直納得もしたし、嬉しかった。だけど、親父は…」
浪川は、自分の存在にたいしても、怒っている。俺達のように、浪川さんが、お袋を選んでいれば、自分も居なかったかもしれない。だけどそれでも誰かの犠牲で今の自分があると揺れている。
「俺がDNA鑑定しなかったら、黙ってるつもりだったのかよ?」
「安易に口に出せる訳がないだろう。」
「そのわりに、草壁先輩に会わせた時。えらく驚いていたよな。」
「ああ、私の若い頃と由樹の面影があったからな。」
「だよな。津村にしつこく似てるって言われなかったら、スルーしてたよ。はっきりさせたくて、迷惑承知でサンプル提供してもらったんだ。」
怒ってるのか、拗ねているのか。良くわからない表情で、俺と明を見た。
「お前さ、二児の父なんだろ?少しはお父さんの気持ち推し量ってやれよ。」
「わからない。大事な相手なら、なんで傷つけられるんだよ。結婚前に妊娠させるなんてさ、傷つくだろ。」
「あれ?恋愛結婚だよね?…結婚まで?」
明は、冷やかすように浪川を見た。
「してたよ。…けど、何があるかわからないんだ。避妊は、してたよ。」
浪川は、まるで現場を見られたように、照れて明を怒鳴った。
最初のコメントを投稿しよう!