プロローグ

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 桜も散り、爽やかな風が吹く5月。その風が一人の少女の長く艶やかな髪を揺らす。その髪が彼女の首筋をそっと撫で、くすぐったさのあまりに思わずかきあげた。 「いよいよか…。」  腰まで伸ばした黒髪に、まるで粉雪のようにきめ細かく陶器のように滑らかな 白い肌。睫毛は長く切れ長の目で、下を向くと大きな薄い茶色の瞳に影が落ちた。小さく筋の通った高い鼻に薄すぎず厚すぎないぷるんとした唇。漆黒のカッターシャツに純白のスカートとベスト。シルク素材の真っ赤なリボン。真新しい制服に身を纏った少女。彼女の名は紫藤蓮華(しどうれんげ)16歳、この小説の主人公だ。  蓮華は自分の前に構える立派な校門の中にそびえ立つ校舎を眺める。校門の大理石に文字がこう彫られていた。 『私立蒼咲学園高等部(しりつあおさきがくえん高等部)』  幼等部から高等部までのエスカレーター式で全国屈指の進学校。偏差値が高く、倍率も高い。ここに入学さえすれば、将来が安定するとさえ言われている。  ここに彼女は今日から編入することとなっている。彼女は大きく伸びをした。 「まぁ…なんとかなるだろ。」  新たな高校生活を目の前に期待や不安等色々考えた末、そう呟いて彼女は校門をくぐり、校舎の中へ入って行った。
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