転入初日

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 校舎の中へ入り持ってきていたスリッパに履き替える途中で、校内の案内図が記載されているパンフレットを家に置いてきてしまったことに気付いた。もともと蓮華もエスカレーター式の学校に通っていたため、彼女はこの学校の情報など殆ど知らない。玄関口でパンフレットを置いていないか探してみたが、それらしきものは見つからなかった。 「玄関にパンフレットぐらい置いてるものなんじゃないの普通って。…仕方ないか」  溜息を吐いて蓮華は自力で職員室を探すこととなった。廊下を歩いている途中、窓から見える範囲の校内施設とグランドを見渡す。 「…広過ぎるだろ」  『蒼学』は私立であるために学費が高い。他に卒業生後援会等もあり、そのおかげで敷地や施設が充実しているのだ。 なぜ彼女がこのような高校に転入したのか。以前はエスカレーター式の学校に通い、普通に友達に囲まれて楽しく高校生活を送っていた。 そんな彼女に両親は仕事の都合でニューヨークに移住することとなったため、一緒に来て欲しいと頼んだ。だが、彼女は理由も言わずに断固拒否する。  そんな彼女に両親は自分たちが選んだ有名な進学校の編入試験を一校だけ受験し、それに合格すれば日本に残ってもいいという条件を提示した。 その条件を蓮華は二つ返事で承諾する。両親が選んだその高校というのがこの『蒼学』だったのだ。  試験の結果蓮華は合格しただけではなく、学費が全額免除される特別奨学生という文句なしという成果を遂げたのだった。この結果にはさすがの両親も驚愕した。両親は彼女が家で勉強をしている光景を見たことが無かったがために、成績はあまりよくないだろうと思い込んでいたのだ。  彼女はただ図書館で勉強する人というだけの話だったのだが、何はともあれ日本に残ることとなったのだ。
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