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ホテルはびっくりするほど大きかった。
長崎のホテルほどではないが、庶民の私には高級すぎる内装だった。
葵さんがフロントに顔を出すと、フロントの人はインカムで何か話そうとした。
「あ、裕には来たこと黙っといてくれる?」
橋本さんがすかさず言う。
「私たちサプライズがしたいのよ。先に部屋に案内してくれる?」
葵さんがウインクをして言った。
フロントの方は笑顔で頷き、私たちを案内してくれた。
最上階のスイートルームの眺めは格別で、夕焼けに染まった綺麗な海が見えた。
「お食事を3名様分ご変更しておきますね。」
係の人が部屋を出る時に微笑んだ。
「2人分でいいよ。すぐ帰るから。」
橋本さんはにっこり笑った。
『え!?』
私と葵さんの声が重なった。
「婚約記念日は二人っきりがいいんだけど。もうレストランが予約してあるよ。」
橋本さんの言葉に結衣さんは今にも泣きそうな表情だった。
「…ということで、裕に仕事が終わり次第スイートルームに来るように言って。ディナーは裕から指示があるまで運ばなくていいよ。こちらのお嬢さんがいることはくれぐれも内密に。」
「かしこまりました。」
そう言って、係の人は出て行った。
「では、葵さん、頑張ってくださいね!俺たちはもう行きます。」
「え?でも!」
「葵さんなら大丈夫!幸運を祈っています。」
二人は私だけを残して、幸せそうに帰って行った。
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