日付もわからない1日

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日付もわからない1日

「おはようございます」 仕事場のドアを開けると、若い奴らが次々と挨拶してくる その間を悠々と軽く返事をしながら自分の席に向かう・・・ 忘れようとしても常につきまとうあの頃の日常… 俺の胸ぐらを掴んだ相手の手を上から掴み、勢いよく引き寄せる その動きと共に、自分の額を短く、早くつき出す グシャっという小気味よい音と同時に、額に、段ボールの角を、踵で踏み潰したような感触が伝わる 戦意喪失した相手を見下ろしながら、数ヶ月前の生活の一部が頭をよぎった 何故?未練?後悔?憎悪 街で金づるを見つけて、叩き潰し、もらうモノをもらう そんな時に、何故昔の事を思い出すのだろう? また苦笑いが顔を埋める 倒れて許しを乞う相手には余計不気味に写ったのだろう 何も言ってないのに財布から札を数枚差し出す 数ヶ月前までの仕事で培ったものが意外な形で役立っている 荒事には慣れている上に 格好や威勢だけの相手も一目見て大体わかってしまう これで一週間は何もせずに生きていける 人と人の間をすり抜けながら、俺はなるべく誰の顔を見なくて済むように斜め下を見て歩く 怒り、後悔、破壊 一歩進むごとに自分の心が暗く濁って行く まるで雨が降っているかのような雑音が心に鳴り響く 最近は良くなったはずなのに 俺は舌打ちをしながら足を速める この数ヶ月の間、あらゆる考えや感情が俺の世界をぐちゃぐちゃに彩っている 人を好きになる事の愚かしさを知った 人の為に何かをする事の虚しさを知った 人を信じる事の無駄さを知った お人好しな人間ほど利用されてバカをみる 利用価値がなくなった途端に態度を変える 信じていた恋人、頼りにしていた友人 またか・・・ 少し思い出しただけで次々と頭の中が暗く濁っていく 暗い、暗い、暗い・・・ 早足が駆け足に変わる 動悸が早まる 暗い、憎い、寒い・・・悲しい 心の中の雨が止まない 思い浮かべたくなく、記憶の底に沈めていた顔が浮かぶ 思い出すな また壊れる 自分が壊れる 今はただ、あの部屋に戻るんだ 何も考えずに 雨ではなく、晴れわたった朝を迎えるまで ただただ 眠るんだ・・・
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