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「うわぁ、凄い雪だなぁ」
朝起きると外は一面銀世界だった。
季節外れの大雪に心が躍る反面、これからのことを考えると気が滅入る。
「今日の巡察は大変だな………」
沖田総司は顔をしかめ、渋々準備を始めた。
寝間着を着替え、浅葱色の羽織をはおる。
この浅葱色にだんだら模様の羽織が僕たちの隊服。
僕たち壬生浪士組の証だ。
壬生浪士組は京では嫌われもので“壬生狼”とか“みぼろ”なんて陰口も叩かれる。
この派手な羽織もよくその陰口の対象になる。
だけど僕はこの羽織が嫌いじゃない。
だって浅葱は武士の覚悟の色だ。
昔から武士は切腹のときに浅葱色の着物を着る。
日頃から戦いの中に身をおく僕たちにぴったりの色。
そしてだんだら模様は忠臣蔵の浪士たちにあやかっている。
主君の敵を討つために自らの死をもいとわなかった彼らは清廉だと思う。
赤穂浪士たちが浅野長矩に忠誠を誓ったように、僕たちは幕府に誠を誓う。
浅葱色にだんだら模様。
僕たちにぴったりだ。
沖田はそんなことを考えながら立ち上がった。
そして屯所の玄関へと向かう。
そこにはもうすでに一番組の全員が集まっていた。
「遅くなってすみません。では行きましょうか」
隊列を組んで歩き出す。
副長助勤である沖田は先頭だ。
そして屯所の門をでたときのことだった。
ぐにっ
「うわぁ!」
突然何か柔らかいものを踏み、沖田は悲鳴をあげて転んだ。
「組長!?」
隊士たちが驚く声が聞こえる。
無理もない、泣く子も恐れる壬生浪士組の沖田総司が無様な悲鳴をあげて転んだのだから。
「だ、大丈夫ですかっ!?」
沖田はそれには答えなかった。
険しい目で自分の転んだ場所を睨んでいる。
チャキッ
沖田は鯉口を切り、柄に手をかけたままそっとそこに近づいた。
「………女?」
そこには見慣れぬ服装の黒髪の少女が雪に埋もって倒れていた。
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