見えない月が昇る頃

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「さ、行こっか。始業式そうそう遅刻なんて格好悪すぎるよ」 朔はそう言って走り出した。 「あ、待ってよー!」 そう言いながらも、つい朔の髪に見とれてしまう。 朔の髪はきれいだ。 真っ暗で、艶々していて、烏の濡れ羽のよう。 あたしの髪は茶色。 昔からこの髪のせいでよく苛められた。 「望ちゃんの髪の毛、変な色」 「気持ち悪いー」 子供は無邪気で、純粋ゆえに悪辣だ。 人と違うものを目障りとし、弾こうとする。 そして成長するとその傾向は強くなった。 「先生のお気に入りだからあんな髪でも許されるのよ」 「ちょっとかわいいからって調子にのって」 そんな心無い言葉に耐えられなくなったときもある。 でも、朔はいつもあたしを守ってくれた。 「望ちゃんの髪はきれいだよ!」 引っ込み思案で穏やかな朔が声を大きくするなんてとても珍しくて、とても嬉しくて、そんな朔はとても強くて美しかった。 「望?何ぼーっとしてるの?」 朔の声にふと我にかえる。 「ううん、なんでもない」 そう首を振りかけて思い直し、先にいる朔を呼ぶ。 「ねえ朔」 「なに?」 「あたし、朔が大好き」 「え、なによ突然」 振り向いた朔は数メートル先で笑っていた。 「私も、望が大好きだよ」 その言葉になんだか幸せな気分になって、あたしは微笑んだ。 「朔、学校まで競走しよっか」 「負けないよ?」 あたしたちは2人同時に走り出した。
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