memory

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秋の香りがする。 落ち葉の匂い、とか栗の匂い ではなく 焼き芋の匂いが 私にとっての秋の香りだ。 そしてその香りは―… 矢小宮公園を通る時に 自動的に私の鼻腔で再現されるのだ―…。 まるで古いメモリーが再生されるかのように ゆっくりと ただ かすかに―…。 寒空の下 私はベンチに腰掛け 単語帳を開いた。 やはり この公園には誰も居ない。 もうすぐつぶれるらしいから 仕方ないことなのかもしれない。 そして私も つぶれるのとどちらがはやいかというくらい もうすぐ 此処を引っ越す。 別に心残りがある訳ではないが …。 私の体は根っこが生えたように動かなくなってしまい私は 仕方なく単語帳を閉じて 目も閉じた。 焼き芋の香りが強くなる―…。 子供の泣き声が聞える。
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