5.どうして

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返事として飛んできたのは、手。 細長い指を目一杯開いたユーリは、幼さの残る顔、その頬に襲いかかった。 葛西は避けない。防がない。鋭い平手を黙って受け、一歩後退しつつも即座に睨み返す。 普段の彼女とは、天と地ほどもかけ離れた気迫だが、 「あんたに何が分かるのよ!」 ユーリは歯牙にもかけない。というより、気にする余裕がないのだろう。 怒りと悲しみが入り交じった、複雑な声色で吠えた。 「私は、鋼介やあんたみたいに強くない! 一人きりで戦えるほど、頑丈にできてないの!」 最初は控えめだった怒りが、徐々に表面化して爆発する。 「それなのに! どうして生きてるのは私で、死んだのは鋼介や兄さんなの!? どうして私は、二人を踏み台にして今ものうのうと生きてるの!?」 轟く問いかけは、しかし答えを求めていない。 だから、葛西も口を動かさない。いつになく冷徹な眼差しを、静かに送り続ける。 「どうしてッ……生きなきゃならない人が死んで、私だけが生きてるのよ!?」 ひときわ大きな声でユーリが叫び、肩で息をするまで、ずっとそうしていた。
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