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重たそうに膨れ上がった雲が、陰鬱なねずみ色で空を覆う。
雪は降りそうもないが、葉を落とした木々を舐める風は、春が遠いことを痛感させる──そんな天気だ。
(元旦から暗ぇったらねぇな)
笹原 慎士は考えた直後、自分の方がよっぽど暗いことに気づき、がっくりと肩を落とす。
桜峰市西部の小高い山。その中腹に建つ神社には、老若男女問わず、参拝客が溢れていた。
学生らしいグループも、いくつか見受けられる。近くにあるという理由だけでここを訪れたことは、容易に想像できた。
他には、薄く酒の匂いを漂わせる集団もいる。徹夜で騒ぎ、その足で初詣に来たのだろう。
寝つけず徹夜(?)した慎士は、活力のない手つきで、賽銭箱へ五円玉を放る。
続いて引いたおみくじは、小吉。
(……中途半端だな)
凶くらいなら、もう少し気の利いたリアクションもできたのに。思いながら、手近な枝に結びつける。
そうして、甘酒でも飲んで帰ろうと歩き出したところで、
「……はぁ~」
長く野太い、憂鬱の吐息を吐き出す。それは地面に落下し、ゆっくりと転がっていった。
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