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深い藍色の表紙には、銀のインクで描かれた、複雑怪奇な紋様。
不可解な禍々しさと、えもいわれぬ神々しさが混在した──とにかく近寄りがたい装丁だ。
「……ふぅ」
呼吸を整え、ページを開く。
それだけで、まったく風がなかった空間に、一陣の冷風が舞い降りた。
「……『その日、神は絶望を創った』」
詠唱開始と同時に、禁術書から頭の中へ、大量の術式情報が雪崩れ込む。
「『小さき人々は学ぶ。絶望とはすなわち、逃れ得ぬ恐怖なり。人から人へ渡り歩く病菌なり』」
この規模になると、陣を形成するのも一苦労だ。焦らずじっくり、丁寧に術式を展開していく。
「『小さき人々は望む。壊すべき者へ絶望を。殺すべき者へ絶望を。愛すべき者にさえ、黒く穢れた絶望を』」
やがて、タナトスが立つビルを中心に、巨大な魔法陣が浮かび上がった。
ビル群を含む中心街はもちろん、港や繁華街まで、全てを包んで不気味な藍色に輝く。
「『父よ、母よ、子よ、友よ、師よ。我が心の望むままに、汝らと共に底の底まで』」
詠唱を終えたタナトスは、厚い本をそっと閉じ、
「……人間ども」
憎悪と覚悟の全てを、声にした。
「私は、ここから……お前たちを終わらせる!」
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