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小さな山の中に、草原があった。周りを森で囲まれた小さな草原だ。
草原には色とりどりの小さな花々が咲き、近くに小川が流れている。
その小川の側に少女はいた。長く綺麗な黒髪を風に靡かせている少女は、車イスに座っている。
少女は寂しそうな表情を浮かべ、その視線を小川に向けていた。
川に入りたい、そう彼女は思っていた。川に入って水面を蹴り上げて水を飛ばしたり、小魚を追いかけたりしたい。
しかし、彼女にはできない。もう、できないのだ。
(昔だったら……昔の私だったら)
川に入って遊べたのに。今の自分にはできない。
彼女には最早、それを悲しいだとか辛いだとか、思えなくなっていた。喪失感や諦めに近い感情しか湧いてこない。
川遊びだけに限ったことではない。生活面にしろ運動面にしろ、彼女にできることは減ってしまっていた。
今の自分には、できることなど何もない。そう彼女は思い込んでいた。
実際には減ったというだけで、できることはあるのに。今の彼女には、それに気付くことができないでいた。
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