キミ ト イツモ

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俺が六歳の夏の日 多分梅雨の頃だったと思う。 真向かいに新しい家が建った。 レンガやクリーム系の色がたくさん使われていて、お伽噺に出てくる家のようだった。 そして、お伽噺の家からは お伽噺のお姫様が出てきた。 お姫様はお母さんと一緒に、俺の家にあいさつにきた。 『郁也くん、この子、郁也くんと同い年だからたくさん遊んであげてね。』 お姫様によく似た、綺麗なお母さんは、俺にそう言って優しく微笑んだ。 そして ほら、あなたもあいさつしなさいとお姫様に促した。 するとお姫様は、お母さんのスカートの後ろに周りなにやらそわそわしだした。 恥ずかしいのだろうか…。 そう思っていると 『み、み…』 喋った…。 『みな、みなぢゅき…』 …噛んだ…。 『みなづき、みおっ…。 ろくさいです…。 え、えと、なかよくしてくださいっ!』 そう言うと、またお母さんの後ろに隠れてしまった。 そこからまた、ひょこんと顔を出すと、照れて顔を赤くしながら 俺にはにかんでみせた。 その瞬間、俺の心臓は高鳴った。 俺に見せたその笑顔はとても綺麗で、それと同時に少し儚げだった。 子供だった俺でも、この世で一番綺麗なものを見た気がした。 そして、俺もお姫様――澪に、 微笑みを返した。 .
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