竜笛の音

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しかし、今回は青羽の方が弱気だった。 彼女の顔にいつもの微笑は無く、すっかり青ざめている。 隆也は、自分も恐ろしい思いをしていたが、青羽の震える手をそっと握りしめた。 驚いた青羽が隆也を振り向く。 「大丈夫です。  なんとかなりますから」 頼りない笑顔だったが、一生懸命元気づけてくれている隆也に、青羽は微笑んだ。 「意味ないかもしれないけど、予防線を張っておきましょう」 青羽が始めたのは、ひたすら名前を呼ぶことだった。 「花蓮、萃香、妃菜……」 そして、不思議なことに、その名前の数だけ、どこからともなく着物姿の人が現れる。 女性も男性もみんな青羽のもとに集まり、最終的に、十数人の人になった。 「どうなってるんだ……」 ぽかんとする隆也に、青羽が微笑んだ。 「これは簡単な式神の様なものよ。 後で話すわ」 青羽は式神たちに向き直り、厳しい口調で命令を下した。 「あの障子が破れたら、わたしたちが逃げる余裕を作ってほしいの。  できるだけ、時間を稼いで」 「畏まりました」 式神たちが一斉に頭を下げた。 その時、恐れていたことが起こった。 「こんな結界で、わたしを遠ざけることができると思ったか」 大きな力を受けていた障子の紙が、徐々に破けてきたのだ。 ついには大きな穴になってしまい、そこに男の手がかかった。 「青羽さん!!」 「は、走るわよ……」 隆也と青羽が走り出したのと、男が障子を開けたのは同時だった。 男の正体は、雲雀と交渉していた帝であり、その眼は黄色い野獣のような目をしていた。 もとは厳かな正装だった束帯も、ところどころ穴が開いている。 「甘いな」 悪魔のような笑い声を響かせながら、帝が迫ってくる。 そこに、青羽が呼んだ式神が襲いかかっていった。 十数人の式神たちに阻まれ、一度は勢いがなくなる。 「青羽さん、急いで!!」
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