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高田はタバコの火をもみ消して、バタバタとデスクの引き出しを開けた。
それでも見つからないらしく、挙句の果てには、デスク上に山の様に積んであったファイルの束を崩した。
そして、やっとのことで一枚の封筒を取り出す。
「本当は來未ちゃんに頼もうと思ってた仕事だけど、彼女はケニアだからね。
特別に隆也君にあげちゃいまーす」
高田がニコニコと楽しそうに差し出した封筒を、いぶかしげな表情をした隆也が受け取る。
ゆっくりと封筒を開けて中身を見ると、京都行きの新幹線のチケットが往復分。
「きょ、京都……」
「どうだ、春の京都だぞ?
最高だろう」
そう言い残して、高田は豪快に笑いながら彼のデスクへと戻っていった。
チケットの日付は今日の夜。
帰りは明後日の朝になっていた。
何の準備していないし、今日だって他の仕事が山積みだ。
「無理ですよ!
京都に行ってる時間なんてありません!」
すると、高田のデスクから呑気な返事が返ってきた。
「取材の許可とっちまったんだ。
ほかに行くやつがいないから、行って来い。
社長命令だぞ、ラッキーボーイ」
そして例によってまた高田が豪快に笑っているのが聞こえる。
結局、來未がやり残した仕事を押し付けられただけである。
もちろん隆也は不満に思っている。
ただし、彼に反抗するほどの度胸と精神力は無い。
「じゃ、よろしく」
高田の笑い声を聞きながら、隆也は、胃がきりきりと痛むのを感じていた。
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