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∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ 衝撃の出張命令が下ってから約二十四時間後。 隆也は、言われた通り、京都で取材を進めていた。 ソラは高田に預けてある。 花の都、京都の桜は確かに美しく、観光客も非常に多い。 日本独特の木造建築が集まる京都、奈良は、外国人が訪れる日本で最も有名な観光地だ。 そのため、四方から聞こえてくる言語は多岐にわたる。 一眼レフを持ち歩く隆也を見て、プロの写真家だと勘違いした外国人の写真撮影に付き合いながら、取材を進めていく。 隆也は、外国語学部出身だ。 若干自信のある英語を使って、観光を楽しむ外国人たちのインタビューも念のため行う。 大概は、 「Oh, it’s been awesome!! These temples are freakin’ beautiful, ya know?」 と、かなり抽象的な感想を興奮状態のまま頂くことになる。 奈良に行き、それから京都を訪ねてきたというアメリカ人観光客は、隆也に二十センチほどの黄金に輝く大仏を見せて、 「cute!!」 と言っていた。 テンションの高い連中に囲まれたなかでメジャーな観光地の取材を終えた頃には、既に日が陰ってきていた。 そろそろ宿に向かおうとタクシーを拾った。 初日とは違う宿。 創業八百年の老舗旅館だと高田は言っていた。 タクシーの窓から見える京都の景色は美しい。 景観を壊さない配慮が細かくなされているため、祇園のあたりは特に風情漂ういい空間だった。 「お客さん、京都は初めてかい?」 「修学旅行以来ですね」 一日中歩き回って疲れている隆也の事情を知ってか知らずか、このタクシーの運転所の口はよく動いた。 年配の明るい運転手だった。 「一人で観光なの?」 「いえ、取材です」 人柄のいい、気さくな運転手なのだが、疲れっている隆也にとっては多少なりとも迷惑だ。 適当に質問に答えながら、窓の外を流れていく風景を眺める。 「新聞の人?」 「雑誌です」 「有名なの?」
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