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すると、運転手は右手の指で顎をなぞる仕草をした。
「さぁ……。
運転手にもよるけれど、普通は来ないよ。
タクシー貸し切って観光する学生さんも多いけど、行きたいところは大体決まってるからね」
隆也は、自分の修学旅行もそうだったことを思い出していた。
事前に行きたいところを決めておき、タクシーの運転手には行先を告げるだけだった。
「よほどここが好きな運転手でなきゃ来ないだろうね。
それに、修学旅行に春に来る学校さんも少ないでしょう。
桜が無きゃ、ここは地味だから」
そう言ってから、運転手は隆也の異変に気付いたようだった。
「あれ、お客さん。
ちょっと顔色が悪くないか?」
隆也の顔は青ざめていた。
しかし、隆也は作り笑いをした。
「いえ、なんでもないんです。
あまりにもきれいだったもので……」
なんとかその場を取り繕う。
今まで会話に興味を示さなかった客が、やっと食いついた。
そう思ったであろう運転手は、更に嬉しそうな表情でしゃべり続ける。
「そうだろう?
ここのこと、小さくでいいから雑誌に載せてくれな」
「ええ」
「あ、そうだ。
雑誌に載せるなら、この橋の話をした方がいいな」
「話?」
隆也が尋ねると、運転手が笑顔で頷く。
「まぁ、ちょっと切ない、と言えば切ない話だけどね」
それまでの興奮したような口調から一転して、運転手は静かに語り始めた。
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