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そして、その運転手の「話」は、概ねこんな感じだった。
この太鼓橋は、平安時代から存在していた。
当時もこの橋は朱色で塗られており、それなりに目印になることから、待ち合わせの場所として使われることも多かったという。
その平安時代。
ある男女が、夜中にこの橋で待ち合わせをしていた。
だがこの男女、本来は会うことは許されない仲だった。
娘の方が、天皇の正室として迎えられようかという話が出るほど身分の高い家柄の娘だった。
しかし、男は宮中にあがる身分ではあったものの、ただの学者。
二人は口を聞くことすらあってはならなかった。
しかし二人は恋に落ちてしまう。
どうしても天皇の后になりたくなかった娘は男を呼び出し、駆け落ちを企てた。
「満月の夜、朱色の太鼓橋で落ち合おう」
男は一人で、娘は、一番近い取り巻きの者を二人だけ連れ、外出を装って太鼓橋に向かうはずだった。
しかし、いくら娘が待っても男は現れない。
しばらく待ったところで父親の家臣が娘を連れ戻しに来てしまった。
「あの方にも何かやむ負えぬ事情があるはず。
今夜はあきらめましょう」
屋敷に戻ってみると、父親がカンカンに怒って待っていた。
どうやら、駆け落ちの話がばれてしまったらしい。
泣く泣く屋敷に戻った娘は、父親からおしかりを受け、そして一本の竜笛を渡された。
「あの男、これをお前に返すようにと申しておったらしい」
それは、娘が男に贈った竜笛。
高価な作りで、贈った時には泣いて喜ぶほど男が興奮していたのを思い出す。
「あなたのために、これから毎晩この笛を吹かせていただきます」
男はそう言っていた。
しかし、それが返された今、この笛は、もう二度とあなたに会うことはない、ということを意味している。
「あな悲しや……」
その後、娘は天皇家に嫁いだが、それから何年もたたないうちにこの世を去った。
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