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翌日の新幹線は午前十一時発。 早朝に宿を出れば、まだ一つか二つ取材することができる。 そんな訳で隆也が布団に入ったのは夜九時だった。 微かに外の庭を流れる小川の音が聞こえ心地いい。 一日中歩き回った疲れもあり、隆也は、吸い込まれるように眠りに落ちた。 それからしばらくたった頃。 ――――カサッ、ササッ。 布が畳を擦るような物音で、隆也は目を覚ました。 枕元に置いてあった腕時計を見ると、まだ午前二時。 さすがにまだ布団から出る気にはならず、もう一度寝ようと布団をかぶる。 しかし、まだあの物音がする。 ――――ササッ、ガサッ。 それは徐々に、隆也に近づいてきている。 「……何の音だ」 眠い目をこすりながら寝返りを打つようにして窓際に顔を向けた。 「……!」 悲鳴も出せない。 全身に一気に鳥肌が立つ。 「あな嬉しや……、ここにおられましたか……」 そこにいたのは、女だ。 十二単を着て、顔を白く塗ったその女は、隆也に近づいてくる。 彼女は、人間ではない。 そう隆也が思ったのは、障子越しに差し込む月の光が、彼女の体を透かしていたからだ。 体が震え、声が出せない。 逃げようにも、体が動かない。 そうしているうちに、女が隆也の頭の横に腰掛け、顔を近づけてきた。 「あら、凍えていらっしゃるの?  震えていらっしゃるの?」 女が隆也の顔を手で撫でる。 氷のように、冷たい手だった。 隆也の口から、かすかに、消え入るような悲鳴が出る。 「や、やめてくれ……」
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