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女の姿が見えなくなった途端に、隆也の体が自由になった。
全身が冷や汗で濡れ、悪寒が残っている。
隆也の顔は蒼白だった。
息を切らし、体を震わせている。
窓の外からはいまだに犬の吠え声がする。
やがて、若女将が犬を叱る声が聞こえた。
隆也は布団から飛び起き、電気をつけて部屋を見渡す。
あの女の姿はもうどこにもない。
そればかりか、彼女がいた形跡すらなにも残っていない。
ただ、首の周りに、締め付ける手の感触がはっきりと残っているだけだ。
額から冷や汗を流し、外にいる人間に助けを求めようと、障子を開いた。
しかし、大きな窓は開かないようになっている。
それでも、部屋から漏れた明かりに、外にいた若女将が気づいた。
そして、深々と頭を下げて犬が吠えたことを詫びた。
「申し訳ございませんでした……。
今までこんなことはなかったんですけれど」
「あれは、なんですか……」
すっかりおびえきっている隆也の声は、掠れていた。
若女将も隆也の様子がおかしいことに気づいた。
「水縞様……、体調を崩されましたか……?」
「いや……、女が……」
「女、でございますか?」
「はい……。
十二単を着た女が部屋に現れて……」
そう言った瞬間、若女将の顔色が変わった。
「お部屋を拝見させていただいてもよろしいでしょうか」
「ええ、お願いします」
庭からまわって部屋に入って来た若女将は、女将を連れていた。
「十二単の女性がいたとか……」
女将が蒼白な顔をして言う。
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