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――――翌朝。
予定では十一時の新幹線だったが、隆也は朝一番の新幹線で東京に向かっていた。
窓の外を流れていく景色は、確かに美しい。
しかし、隆也にそんなものを眺めている余裕はなかった。
旅館の看板犬であるシロと一夜を過ごし、起床したのは早朝六時。
布団から起き上がると、シロも頭を起こした。
窓からは明るい朝日が差し込み、昨夜のことなど嘘だったかのようだった。
それでも、首を絞めたあの女の手の感触がはっきりと残っている。
あの光景を思い出すだけで、身が凍るような思いだった。
そんな隆也の気持ちを見通しているかのように、シロが不安げな視線を送ってくる。
伏せたまま静かにしているシロに、隆也は笑顔を向け、頭を優しくなでた。
「おはよう、シロ」
「ワンッ!!」
隆也の声に応えるかのように、シロが軽く吠える。
おそらく、そのシロの声を聞いたのだろう。
部屋のドアがノックされ、女将の声が聞こえてきた。
「水縞様、失礼いたします」
「あ、どうぞ」
早朝であるにも関わらず、女将は美しい着物姿だった。
玄関と部屋を隔てるふすまを丁寧な動作で開け、部屋に入るときに正座をして頭を下げた。
「よくお眠りになられましたか?」
「ええ、おかげさまで」
「昨夜は、大変失礼いたしました。
今まで、あのようなことはありませんでしたゆえ、私たちも驚くことしかできなくて……」
女将は再び頭を下げる。
「今回の御食事代、それからご宿泊の代金もいただきません」
「あ、いや、そんな……」
「いえ、そうさせてください」
「はぁ……」
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