63人が本棚に入れています
本棚に追加
/147ページ
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
川のせせらぎ、そして、木々がそよ風に揺られる音。
既に時は夜中を過ぎていた。
夜の闇に浮かぶ満月の明かりが水面に映り、光っている。
また、まだ多く残る雪も、白く輝く。
風が吹くたびに桜の花びらが舞い、桜の間にはえている柳の葉が揺れる、息をのむほど美しい光景だった。
美しく朱色に塗られた太鼓橋の中ほどに、一人の男が立っている。
無地の紺色の狩衣を身にまとい、背には弓矢を持ち、どこか落ち着かない様子だ。
橋の欄干に手を乗せ、ゆっくりと流れる川の流れを眺めている。
「……まだか」
辺りを見回すその様子から、何かが起こるのを、また、誰かが来るのを待っている様子だ。
手には黒く塗られた竜笛が一本。
男はその竜笛を、握りしめるようにして持っている。
春を迎え、桜が舞う美しい夜ではあったが、この日は特別冷えた。
日中はあたたかく吹いていた風が北風に変わり、男の体を容赦なく冷やしていく。
男は体を小刻みに震わせ、じっと寒さに耐えながら、何かを待ち続ける。
そしてその男の肩を、ポンッと叩くものがあった。
途端に、川を眺めていた男の表情が輝くほど嬉しそうなものに変わり、パッと後ろを振り向いた。
最初のコメントを投稿しよう!