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∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽  川のせせらぎ、そして、木々がそよ風に揺られる音。 既に時は夜中を過ぎていた。 夜の闇に浮かぶ満月の明かりが水面に映り、光っている。 また、まだ多く残る雪も、白く輝く。 風が吹くたびに桜の花びらが舞い、桜の間にはえている柳の葉が揺れる、息をのむほど美しい光景だった。 美しく朱色に塗られた太鼓橋の中ほどに、一人の男が立っている。 無地の紺色の狩衣を身にまとい、背には弓矢を持ち、どこか落ち着かない様子だ。 橋の欄干に手を乗せ、ゆっくりと流れる川の流れを眺めている。 「……まだか」 辺りを見回すその様子から、何かが起こるのを、また、誰かが来るのを待っている様子だ。 手には黒く塗られた竜笛が一本。 男はその竜笛を、握りしめるようにして持っている。 春を迎え、桜が舞う美しい夜ではあったが、この日は特別冷えた。 日中はあたたかく吹いていた風が北風に変わり、男の体を容赦なく冷やしていく。 男は体を小刻みに震わせ、じっと寒さに耐えながら、何かを待ち続ける。 そしてその男の肩を、ポンッと叩くものがあった。 途端に、川を眺めていた男の表情が輝くほど嬉しそうなものに変わり、パッと後ろを振り向いた。
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