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「ああっ!!」
自分の声に驚いて目覚めると、そこは現代の自分の部屋だった。
恐ろしく散らかった部屋の中におかれたベッドの上で、水縞隆也は目覚めた。
全身に冷や汗をかき、目から頬にかけて、涙が伝った跡がある。
もともとくせ毛の髪は四方に広がり、普段より頭が二倍大きく見えた。
「クゥン……」
耳元には一匹の白い柴犬がいて、隆也を心配しているような声で小さく鳴いた。
「よお、ソラ」
ソラは隆也が友人から譲り受けたものだ。
子犬が産まれたのだが、ソラだけ買い手が見つからず、飼ってみないかと半ば強引に譲り受けることが決定した。
隆也は、どうも、人から何か頼まれると断れない。
「じゃ、よろしく」
相手のこの言葉で、全てが決まってしまう。
そのたびにどこか情けない気持ちにはなるのだが、気にしてはいない。
それに、このソラに関しては、非常にいい友好関係を結んでいる。
あの某携帯会社のマスコットがソラと似ている事から、周りからお父さんと呼ばれるようになってしまった。
ソラにとってはそれだけが唯一の不満らしい。
お父さんと呼ばれたときは拗ねたように無視する。
しかし、それ以外は、呼べばまるで微笑んでいるかのように人懐っこい表情をして近寄ってくる。
なかなかいい相棒なのだ。
枕元に顔を寄せ、鼻をクンクンとさせているソラの頭を優しくなでてやる。
「大丈夫だよ、また変な夢を見ただけさ」
ソラは頭を少し、左にかしげるようにした。
「クゥン……」
ホントかよ、とでも言いたげである。
隆也はソラを飼うまで、犬がこんなにたくさんの表情を持っているとは知らなかった。
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