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∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ――――午前六時。 「おお、今日は早いな」 隆也が出勤すると、すでに社長の高田明雄が職場に来ていた。 朝からタバコをふかし、コーヒー片手にパソコンの画面を眺めている。 中肉中背の五十代で、先日孫が生まれたそうだ。 頭は禿げることなく、白髪交じりの髪をオールバックにしている。 そして、高田が着ているのはジャージにパーカーだ。 この職場でスーツを着ているのは、隆也を含め二、三人のみ。 いつでも眠そうな顔をしているが、社員をまとめ、そして会社を創設したのは高田だ。 彼に簡単に挨拶を済ませ、隆也も自分のデスクに座り、ノートパソコンを立ち上げる。 隆也は雑誌の編集者、そしてライターでもある。 あまりメジャーではないが、そこそこの売り上げを誇る雑誌の編集社に勤め、割と高額な月収をもらって、ペット可のマンションでソラと暮らす。 隆也が制作に携わっている月刊誌の「リベタ」のテーマはほとんど決まっていない。 毎月、違った特集記事を組んで掲載する、かなり自由気ままな雑誌だ。 そもそも、名前の「リベタ」はイタリア語で自由と言う意味らしい。 グーグル翻訳で出てきた名前をそのまま採用したらしいが、高田が思う意味に沿っているかどうかは一切不明である。 「で、なんで今日はそんなに早いの」 「よく寝つけなかったんですよ」 高田の話に適当に応えながら、メールのチェックをする。 新着メールが十件。 どこからこのアドレスを嗅ぎつけてくるのかは知らないが、広告メールが三件。 残りのメールはインタビューの原稿や、インタビューや取材申請の返事。 それからその他連絡事項などのメールだ。 今日は珍しく少ない。 メールを一つ一つ開けて確認する隆也に構わず、高田は喋り続けた。 「寝つけない?  なんだ、女でもできたのか」 「今まで、おれに女性に関する話題が出たことがありますか?」 「ないから、面白がって聞いてるんだろ」 「残念ですが、まだありません」 「顔もスタイルもいい、我社のイケメンエースなんだから、女ができたら教えろよ。 十ページ割いて特集組んでやる」 高田が豪快な笑い声を上げ、たばこを口にする。
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