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高田の頭上はタバコの煙で白くなってきている。 「一体どれだけ吸ったらこんなになるんですか。  もうすぐ女の子たちが来るんですから、いい加減換気を始めたらどうです?」 「バカ野郎、今日はお前が早く来たんだろ。 まだ六時なんだよ。  クミちゃんたちは七時まで来ないの」 クミちゃんは、ファッション欄を担当する女性社員、夏目來未のことだ。 女性が好きな話題は女性が担当するのが一番である。 この信念のもと、履歴書も持たずに面接に来た來未を採用したのはやはり高田だ。 もうすぐ三十近くなるはずの來未だが、渋谷の女子高生と同じような恰好をしている。 爪は魔女のように長く、一本一本が違う色をしていることがほとんどだ。 髪はもちろん金髪。 ブロンドではなく、金だ。 宝塚歌劇団を想像していただければイメージは浮かぶだろう。 ベルサイユの薔薇など、少女マンガのような髪の色で、服装も平気でシンデレラドレスを着てきたりする。 奇抜なファッションが話題を呼び、彼女が持つ枠のファンは少なくない。 ただし、彼女がイチオシと評して掲載した先月のページのモデルは、紅白の小林幸子と互角に戦えるほど豪勢な恰好をしていた。 高田の驚きの人事は彼女だけではない。 これまたひそかにファンがいる占いコーナーを担当しているのは、自称本物の占い師だ。 編集室の一角を黒い布で仕切り、大概はその中にいる。 事務所の中でも特別異様な雰囲気を醸し出す一角だ。 その空間にためらいもなく足を踏み入れるのは隆也のみ。 福神幸、「フクノカミ サチ」なんていうふざけた名前の占い師の空間には、水晶玉や、気味の悪い木彫りの置物が置いてある。 まさか、「福の神」なんてのが本名だとは思えない。 しかし、高田に聞けば、彼女はそれが本名だと言い張っているらしい。 面白いということで採用した、と高田から事後報告された。 このようないい加減な採用基準によって集められたスタッフが総勢三十名。 うち、女性社員が二十名。 彼らをまとめるのが隆也の仕事。 中にはまともに職務を全うしてくれる人材がいないこともないが、前に述べたように生粋の奇人変人集団だ。
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