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そう伝えると、高田は確かに送った記憶があるという。 「おとといの夜中くらいに送ったろ」 「おとといの夜中……?  もしかして……」 隆也はカバンから新しく買い換えたスマホを取り出し、おととい高田から送られてきたメールを探し出した。 メールを開いて本文を表示させる。 『くみかかにああさつてうく』 おととい高田から届いたメールには、こう書かれている。 隆也はじっと見つめて考え、数秒でその謎は解けた。 「高田さん、酔ってたんですか」 「そうだな。  でも、ちゃんと送ってあっただろ」 高田が自信ありげに言う。 高田からのメールは、一切変換が無く、ボタンを押す回数を間違え、そしてスペース、濁点、それから小文字が一切無い。 これを踏まえてもう一度メールを読んでみると、 『來未、ケニアに明後日いく』 となるわけだ。 「こんなの、分かるわけないでしょう」 「今読めたろ。  それに、來未ちゃんは今日行っちゃうんだから。  仕方ないでしょ」 そして、大口を開けて笑った。 隆也からすれば冗談にもならない。 一週間來未がこないとなれば、しかもケニアに観光に行ってしまうとなれば、本当に記事が出来上がるまで一週間以上かかる。 ということは、彼女が書いた記事をチェックして再編集する隆也の仕事が遅れる。 そして、その他この記事、それどころか雑誌制作にかかわっているもの全てに支障が出る。 これは、隆也にとって、これから謝罪の電話を大量にしなければならないことを意味していた。 隆也が頭を抱え、低くうなった。 「怒るなよ。  そんな隆也君に、俺からとってもラッキーな取材のお話があります」 まるで視聴者プレゼントを紹介するかのような口調だ。 隆也の心の中には、嫌な予感が渦巻いていた。 「なんですか」
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