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「幸村~入ってこ~い!」
先生が扉の方に向かって言った。
……しかし入ってこない。
「……お~い、ゆき……」
≪ガラガラガラ……≫
もう一度先生が呼ぼうとしたら扉が開いた。
俺たちの視線がそこに集まる。
……先生の『女の子?』の意味がわかった。
入ってきた女の子は制服をきちんと着こなした、
黒髪ロングで顔もいい女の子。
……だがその髪は『ロング』と言うにはあまりに長すぎで、ボサボサで、しかも寝癖まで立っていた。
……女を捨ててる?
それが俺の第一印象だった。
お世辞にもかわいいとは言えない。
クラスのみんなの目線も好奇の目線から変な物を見る時の目線に変わり、そばの席のやつとヒソヒソ話をし始めた。
幸村はそんなみんなの態度など眼中にないかのようにスタスタと先生の方に歩き一礼。
「素晴らしい紹介、ありがとうございます。
おかげさまで素晴らしい気分になれました」
と言った。
……見事なまでの皮肉だ。
クラスのざわめきが大きくなる。
先生ですらうろたえている。
そんなことさえも気にせずに幸村は俺たちの方を一礼。勝手に自己紹介を始める。
「幸村 詩織、16歳、誕生日は2月26日。好きな物はほとんどないけれど嫌いな物はいっぱいある。でもめんどくさいので割愛。前の学校はここより遥かに偏差値の高い学校だったけど遠かったから辞めた。学校名はめんどくさいので割愛。よろしくお願いします……とは言いませんお願いする気がないですから」
嵐のようだった。
ザワザワしていたクラスが今度はピタッと黙り込み、静寂に包まれた。
しかし幸村はまたそれも自分に関係ない事のように無視して、俺の方……正確には自分の席に向かって歩き出した。
近づいてくる幸村。
彼女の口まで届きそうな前髪の分け目から見える彼女の目は……
………………死んでいた。
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